ハイドン「太陽四重奏曲」

音楽の理解しやすさというのは、その音楽が親しみやすく平明であるかどうかということの他に、それを聴く人の生まれつきの気質の傾向、さらに加えて、その人の歩んできた人生行路みたいなものが影響しているように私は思います。
私が最近好んで聴いているハイドンの音楽について言うと、それはとても優しい表情をしている、つまりは親しみやすく平明ではあるのだけれど、若い頃の私にとってはさほど興味を引く音楽ではありませんでした。正直に言うと、ハイドンの音楽は、その平明さゆえに、わかったつもりでいたのだけれど、実は全く理解できていなかったのですね。その意味では、以前の私にとっては、ハイドンは難解な音楽だったと言えるかもしれません。

数年前に、現役のサラリーマンを引退し、山奥で独り、農業を営んでいる今、どの作曲家がいちばん好きか、と問われるなら、私は躊躇なく、ハイドンと答えると思います。ハイドンには他の作曲家にない、あっけらかんと晴れわったった青空のような、此岸の苦しみを離れた彼岸の世界を今は感じるのです。
そしてまた、ハイドンの多くの作品を聴き進むうち、以前の私が「平明」と単純に考えていたハイドンの音楽が、実は器楽的に入念に作られた誠にスキのない天才の作品であることを発見し、楽しい驚きを感じています。

ここでは、私をハイドン好きにしたきっかけの一つとなった「太陽四重奏曲」をご紹介しておきましょう。
私が好んで聴くのは、ハーゲン四重奏団の録音です。その緩徐楽章のいくつかは、もし天国に音楽が流れているとしたら、それはきっとこんな屈託のない穏やかな音楽なのだろうなと思うのです。

ハーゲン四重奏団の「太陽四重奏曲」は、現在CDでは手に入りにくいようですが、ダウンロードで入手できるようです。他の団体の録音では、ウルブリヒ四重奏団のもいいですね。小さなドレスデン・シュターツカペレという感じの整然とした渋い響きが魅力で、こちらもよく聴いています。